ヒマワリ ~キミがくれた宝物~
幼いころ、俺には四歳年上の好きなお姉さんがいた。
そのお姉さんは近所に住む同じ年頃の男の子にとって夏樹お姉さんと呼ばれ、憧れの的だった。
家が近いことや良く遊んでもらっていた事もあり、俺は夏樹姉さんを“夏ねぇ”と呼んでいた。
それから数年が経ち、俺は中学三年になり、夏ねぇは高校三年生になっていた。
その年の夏休み。夏ねぇは取ったばかりの免許で二つ駅の先にある「向日葵太陽の里」へと、買ったばかりのバイクに乗り、部の研修へと出かけた。
その日はちょうど地元の夏祭りが開催される日であり、俺は意を決して夏ねぇをお祭りに誘っていた。
一緒に回る約束の時間まではまだ五時間もあり、俺はそわそわしながら家で夏の課題を消化していた。
だけど・・・・・・その約束は叶うことはなく、そしてその日が夏ねぇと過ごした最後の日となってしまった。
第一章
ジリリリリリッ
けたたましく鳴る目覚まし時計の中、俺は薄らと目を開けた。
いつも通りセットした時間に鳴る目覚まし時計を手に掴み、タイマーを止めようと目にした時間を見て、俺の脳は一気に覚醒した。
「ヤッベェ~!!もうこんな時間。どうして最初の目覚ましで起こしてくれなかったんだよ、母さん」
「起こしたわよ、何回も。ねえ、父さん」
「あぁ」
「マジかよー。クソッ!!」
俺は制服を素早く着ながら両親のいる居間を通り抜け玄関へと向かった。
時刻は午前十時。
今日は学際準備のためクラス登校日であるのだが、いきなりやってしまった。
目覚まし時計もセットしてあったのに寝坊とは・・・・・・
「んじゃ、行ってくる!!」
「車に気をつけなよ」
そう言う母の声を背にして俺は家の玄関を飛び出した。
俺の家族は丘の上に並んでいる住宅街の一つに住んでいる。
自分で言うのもなんだが、結構見晴らしが良く、麓の川でやる夏恒例の花火大会を観るには絶好の場所である。
が、しかし、夏ほど此処に住んで嫌になったことはない。
高校が麓に建っているため自転車通学なのだが、これがまたキツイ。行きは 下りだからそうキツくないのだが、帰りは三十分もかけてこの上り坂を上がらなければならない。これが夏だとどうなるのか想像がつくだろう。汗はダラダラ、体中ベトベト。家帰ったらシャワー浴びないともうダメ!!
それ位、嫌な場所に建っているわけで。
そんな只今夏本番。こんなことが毎日続いているわけである。
そして今日。八月七日は夏休み初めてのクラス登校日。
学際準備の班分けをするから絶対に遅刻をしないようにと、担任の伊藤先生から言われていた。のだが、それを分かっていながらも昨日は遅くまで新作のゲームをしていた。
それが即けに回ったのか、寝坊してしまうとは・・・・・・
やっと学校に着いた頃にはもう十時半を回っていた。
もうとっくに話し合いは始まっている。
俺は急いで上履きを履き、二階にある自分の教室に向かって走り出した。
二段飛ばしで階段を昇り、突き当たりを曲がると三―二という部屋版が見え、俺は勢いよくドアを開けた。
「遅くなりました!!」
ドアを開けた音は教室内に響き、その後、クラスメイト達の白い目線が一斉に自分へと向けられた。
「残念だったな、春樹。お前の役割はもう決まったぞ」
そう言ったのは俺の幼馴染、志藤和真だった。
俺は息を上げたまま急いで黒板を見る。
そこには『クラス旗代表 風間春樹』と俺の名前が堂々と書かれていた。
走ってきたばっかりでうまく言葉が出ないせいもあってか―
「ちょっと待て」
その一言を出すのに五秒ほど時間をかけてしまう。
「本人不在で役割を決めるのは無しだろ」
やっと出た文句に対し、
クラス委員長である間宮彩音が
「残念。遅刻した本人が悪いのよ」
と、正論なツッコミを入れてきた。
そりゃ確かに遅れてきたのは悪いと思ってる。だが本人の意思を聞かないで決めるのはどうなのか。
「他にやりたい人がいるかもしれないだろ。みんなにはちゃんと聞いたのか?」
「それはもちろん。ただ誰もやる人がいなくて。それで遅刻してくる春樹君 にしようと私がみんなに提案。それで全員一致で決定したのよ」
なんてことだ。これはイジメじゃないのか?せめて役割付けるならもう少し楽なのにして欲しかったぞ。
と言っても、誰から見ても遅刻した俺が悪い。否応なくそこは認めるしかない。
「わかった。遅刻したのは俺だ。そこは認める」
俺は肩を落としてそう言った。
「よろしい」
間宮彩音は腕組をしながら満足げに頷いた。
しかし、なんて大変な役割になってしまったんだろう。
俺が通うこの高西高等学校における学際は普通の学校が行う学際と一味違う。
クラスで出す全ての科目または種目がバトル形式となっており、学年トップクラスにはなんと一日お休みが貰えるという普通じゃありえない特別待遇があるのだ。
そして色々ある科目の中、このクラス旗はその得点の4割を占めるとても重要なポジションに位置付けられている。
それだけ勝つ為のカギになる役割を美術の成績が中の下の俺に託すとは・・・・・・
おい、もう結果が見えているぞ。
だが幸いかあるいは策略か。代表の俺を抜かして他三人のメンバーの中に美術部二人が配備され俺をフォローする形を取っていた。
美術部一人目は『七瀬はるか』
はるかは俺と同じ中学で今でも良く一緒につるむこともある。見た目は普通の可愛い女の子でもあり、良く告白されているらしいが付き合っている形跡が無い。
二人目は『藤本美香』
はっきり言ってクラスで・・・・・・いや、もしかしたら学校内で一番の美少女かもしれない。ルックス・スタイル共に男女問わず人気がある。
かくいう俺もこの娘と夏休みを過ごせるなら少しも悪い気がしなかった。
んで、残る三人目はというと―
「まあそう言うわけだ。よろしく」
俺の目の前に立って爽やかな笑顔を見せるそいつの名は『志藤和真』
「ちょっと待て。お前が入るなら俺は必要ないだろ」
「いやいや。自分はまだまだやることが多くてね。まあ春樹の監視役といったところかな」
どうやらサボると思われてるらしい。
「誰がサボるかよ。俺は約束を守る男だぞ」
「あれ?そうだっけ。自分は結構裏切られた記憶があるんだけど・・・・・・」
「それはどうしてもの時だけだ。・・・・・・ったはずだ」
「まあ、いいけどね」
和真はそういうとニヤニヤしながら自分の机に戻っていった。
そして学祭の全ての科目・種目が決まるとクラスメイトらはそれぞれ決められた部所に分かれて行き、俺の元には和真を始めとする男女四人が集まっていた。