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おかえり 

 

サイド・ストーリー 夏実編

著 マナカまあにゃん

 

携帯のコール音が鳴る。

ベッドで横になり漫画本を読んでいた私は直ぐさま起き上がり机に向かった。

携帯を開く。画面には懐かしい名前が表示されていた。

「もしもしなっちゃん?」

受話器の奥から聞こえてきた声に返事をする。

「お久しぶりです。音葉先輩」

私が北海道に引っ越す前まで住んでいた故郷で、ずっとお世話になっていた大好きな先輩から電話がかかってきた。

季節は二月。本土。特に南の方では桜の話がTVの天気予報で伝えられるが、私が住んでいる北海道ではまだ春の気配は感じられない。私の部屋の窓からは今日も雪が降り続いていた。

「観たよ、動画!!凄いじゃん」

二週間前に私が某動画サイトに投稿したのを音葉先輩に聴いて貰いたくてメールを送っていた。その感想の為にわざわざ電話してきてくれた事が凄く嬉しくなった。

それに……二年振りに聴いた先輩の声はとても綺麗で。でも、ちょっとおちゃめでやっぱり私にとっては居心地が良かった。

でも嬉しいのを電話越しとは言え気付かれて欲しくなかった私は、つい、照れ隠しをする為にこんな意地悪な質問をしてみた。

「あれ?わざわざそれを言う為に電話していてくれたんですか?いつもはメールなのに?」

すると、音葉先輩は優しく笑いながらごめんなさいと言ってくれた。

そんな和やかな時間が電話越しに続く。そして私はある事を思い出す。メールで伝えるにはどうしても伝えきれない嬉しい出来事。私はその報告を待つ。

でも……いつまで経ってもその言葉は先輩の口から出る事は無かった。

私は我慢しきれなくなり、会話の途中であったが、その言葉を口にした。

「そう言えばなんで言ってくれなかったんですか?

「えっ?」

音葉先輩がびっくりするのが電話越しから聞こえた。

やっぱり先輩は勿体づけてたんだと確信した私は先に言われる前に止めの言葉を伝える。

「春秋さん。デビューおめでとうございます!!

すると何故か先輩は困惑したような声を出した。

あれ?違うの?嬉しい事じゃなかったの?

黙る音葉先輩に私も言葉が止まる。すると、先輩は凄く真剣な声で―

「あのね、なっちゃんにね。言わなきゃならないことがね……あるの」

と、凄く言いずらく、でもはっきりとそのことを口にした。

 

私はその日を境に……後悔と共に凄く感謝に満ち溢れた世界へと足を踏み入れたのだった。

 

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